陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(ハーグ陸戦法規)※条文写し

朕枢密顧問の諮詢シジュンを経て明治四十年十月十八日和蘭国海牙に於て第二回萬国平和会議に賛同したる帝国及び各国全権委員の間に議定し帝国全権委員が第四十四条を留保して署名したる陸戦の法規慣例に関する条約を批准しココに之を交付せしむ。

明治四十五年一月十二日

内閣総理大臣侯爵西園寺公望

外務大臣子爵内田康哉

条約第四号

陸戦の法規慣例に関する条約

独逸ドイツ皇帝普魯西プロシア国皇帝陛下、亜米利加アメリカ合衆国大統領、亞爾然丁アルゼンチン共和国大統領、奥地利国オーストリア皇帝「ボヘミヤ」国皇帝洪牙利ハンガリー国皇帝陛下、白耳義ベルギー国皇帝陛下「ボリヴィア」共和国大統領、伯剌西爾ブラジル合衆国大統領、勃爾牙利ブルガリア国公殿下、智利チリ共和国大統領、格倫比亞コロンビア共和国大統領、玖馬キューバ共和国大統領臨時総督、丁抹デンマーク国皇帝陛下「ドミニカ」共和国大統領、「エクァドル」共和国大統領、佛蘭西フランス共和国大統領、大不列顛愛蘭連合王国グレートブリテン及びアイルランド連合王国大不列顛海外領土皇帝印度インド皇帝陛下、希臘ギリシア国皇帝陛下、「グァテマラ」共和国大統領、「ハイチ」共和国大統領、伊太利イタリア国皇帝陛下、日本国皇帝陛下、盧森堡ルクセンブルク国大公「ナッソー」公殿下、墨西哥メキシコ合衆国大統領、「モンテネグロ」国公殿下、諾威ノルウェー国皇帝陛下、巴奈馬パナマ共和国大統領、「バラクェー」パラグアイ共和国大統領、和蘭オランダ国皇帝陛下、秘露ペルー共和国大統領、波斯ペルシア国皇帝陛下、葡萄牙ポルトガル国及「アルガルヴ」皇帝陛下、羅馬尼亜ルーマニア国皇帝陛下、全露西亜ロシア国皇帝陛下、「サルヴァドル」共和国大統領、塞爾比亞セルビア国皇帝陛下、暹羅シャム国皇帝陛下、瑞典スウェーデン国皇帝陛下、瑞西スイス連邦政府、土耳其トルコ国皇帝陛下、東「ウルグェー」ウルグアイ共和国大統領、「ヴェネズエラ」合衆国大統領は平和を維持し且つ諸国間の戦争を防止する方法を講ずると同時に其の所期に反し避くることあたわざる事件の為兵力に訴ふることあるべき場合に付き攻究を為すの必要なることを考慮しくの如き非常の場合に於ても尚能く人類の福利と文明の駸駸シンシンとして止むことなき要求とにはむことを希望し之が為戦争に関する一般の法規慣例に一層之を精確ならしむるを目的とし又はなるべく戦争の惨害を減殺すべき制限を設くるを目的として之を修正するの必要を認め千八百七十四年の比律悉ブリュッセル会議の後に於て聰明仁慈なる先見より出でたる前記の思想をタイして陸戦の慣習を制定するを以て目的とする諸条規を採用したる第一回平和会議の事業を或点に於て補充し且つ精確にするを必要と判定せり。

締約国の所見に依れば右条規は軍事上の必要の許す限り努めて戦争の惨害を軽減するの希望を以て定められたるものにして交戦者相互間の関係及び人民との関係に於て交戦者の行動の一般準縄ジュンジョウたるべきものとす。

但し実際に起こる一切の場合にアマネく適用すべき規定は此の際之を協定し置くことあたわざりしとイエドも明文なきの故を以て規定せられざる総ての場合を軍隊指揮者の独断にマカするはまた締約国の意思に非ざりしなり。

一層完備したる戦争法規に関する法典の制定せらるるに至る迄は締約国は其の採用したる条規に含まざる場合に於ても人民及び交戦者が依然文明国の間に存立する慣習、人道の法則及び公共良心の要求より生ずる国際法の原則の保護及び支配の下に立つることを確認するを以て適当と認む。

締約国は採用せられたる規則の第一条及び第二条は特に右趣旨を以て之を解すべきものなることを宣言す。

締約国は之が為新たなる条約を締結せむことを欲し各左の全権委員を任命せり。

独逸皇帝普魯西国皇帝陛下

国務大臣、土耳其国駐箚チュウサツ特別全権大使、男爵マルシャル、ド、ビーベルスタイン

本会議特派委員「コンセイエー、アンチーム、ド、レガション」、帝国外務省法律顧問、常設仲裁裁判所裁判官、「ドクトル」ヨハンネス、クリーゲ

亜米利加合衆国大統領

特命大使ジョセフ、エッチ、チョート

特命大使ホレェス、ポーター

特命大使エリア-、エム、ローズ

和蘭国駐箚特命全権公使デヴィッド、ジェーン、ヒル

海軍少将、全権公使チャールス、エス、ペリー陸軍少将、合衆国陸軍法会議長、全権公使ジオージ、ビー、デーヴィス

全権公使ウィリアム、アイ、ブカナン

亜爾然丁共和国大統領

前外務大臣、伊国駐箚特命全権大使、常設仲裁裁判所裁判官ロケ、サエンツ、ペニヤ

前外務及び教務大臣、下院議員、常設仲裁裁判所裁判官ルイス、エム、ドラゴ

前外務及び教務大臣、常設仲裁裁判所裁判官カルロス、ロドリゲス、ラレタ

奥地利国皇帝「ボヘミヤ」国皇帝洪牙利国皇帝陛下

「コンセイエー、アンチーム」、特命全権大使ゲータン、メレー、ド、カボスメレー

希臘国駐箚特命全権公使、男爵シャール、ド、マッキオ

白耳義国皇帝陛下

国務大臣、代議員議員、佛国学士院会員、白耳義国学士院会員、羅馬尼亜国学士院会員、国際法学会名誉会員、常設仲裁裁判所裁判官ベルナール

国務大臣、前司法大臣ジー、ウァン、デン、ヒェーベル

和蘭国駐箚特命全権公使、羅馬尼亜国学士院会員、男爵ギーヨーム

「ボリヴィア」共和国大統領

外務大臣、常設仲裁裁判所裁判官クラウヂオ、ビニラ

英国駐箚特命全権公使、フェルナンド、エ、グワチャラ

伯剌西爾合衆国大統領

特命全権大使、常設仲裁裁判所裁判官ルイ、ボルボサ

和蘭国駐箚特命全権公使エヅアルド、エフ、エス、ドス、サントス、リスボア

勃爾牙利国公殿下

陸軍参謀少将、侍従将官ヴルバン、ヴィナロフ

大審院検事総長イヴァン、カランジェーロフ

智利共和国大統領

英国駐箚特命全権公使ドミンゴ、ガナ

独逸皇駐箚特命全権公使アウグスト、マッテ

前陸軍大臣、前代議員議長、前亜爾然丁駐箚特命全権公使カルロス、コンチャ

格倫比亞共和国大統領

陸軍将官ボルヘ、ホルグィン

サンチアゴ、ペレス、トリアナ

佛国駐箚特命全権公使、陸軍将官マルセリアノ、ヴァルガス

玖馬共和国大統領臨時総督

「ハヴァナ」大学国際法教授、上院議員アントニオ、サンチェス、デ、ブスタマンテ

米国駐箚特命全権公使ゴンザロ、デ、クェサタ、イ、アロステグィ

前「ハヴァナ」中学校長、上院議員マヌエル、サレグィリー

丁抹国皇帝陛下

侍従、米国駐箚特命全権公使コンスタンチン、ブロン

海軍少将クリスチアン、フレデリック、シェルレル

侍従、外務省課長アクセル、ヴェデル

「ドミニカ」共和国大統領

前外務大臣、常設仲裁裁判所裁判官フランシスコ、ヘンリケス、イ、カルヴァハル

共和国専門学校長、常設仲裁裁判所裁判官アボリナル、テハラ

「エクァドル」共和国大統領

佛国駐箚兼西班牙スペイン国駐箚特命全権公使ヴィクトル、レンドン

代理公使エンリケ、ドルン、イ、デ、アルスア

佛蘭西共和国大統領

特命大使、上院議員、前内閣議長、前外務大臣、常設仲裁裁判所裁判官レオン、ブールジョア

上院議員、一党全権公使、常設仲裁裁判所裁判官、男爵デスツールネル、ド、コンスタン

巴里大学法科大学教授、名誉全権公使、外務省法律顧問、佛国学士院会員、常設仲裁裁判所裁判官ルイ、ルノー

和蘭国駐箚特命全権公使マルスランベレ

大不列顛愛蘭連合王国大不列顛海外領土皇帝印度皇帝陛下

枢密顧問官、特命大使、常設仲裁裁判所裁判官「サー」エドワード、フライ

枢密顧問官、常設仲裁裁判所裁判官、「サー」アーネスト、メーソン、サトウ

枢密顧問官、前国際法学会長、男爵ドーナルド、ジェームス、マッケー、レー

和蘭国駐箚特命全権公使、「サー」ヘンリー、ハワード

希臘国皇帝陛下

独逸国駐箚特命全権公使クレオン、リツオ、ランガベ

雅典大学国際法教授、常設仲裁裁判所裁判官ジョールジュ、ストレイト

「グァテマラ」共和国大統領

和蘭国駐箚兼英国駐箚代理公使、常設仲裁裁判所裁判官ホセ、チブレ、マチャド

独逸国駐箚代理公使エンリケ、ゴメス、カリリヨ

「ハイチ」共和国大統領

佛国駐箚特命全権公使ジャン、ジョセフ、ダルベマル

米国駐箚特命全権公使ジー、エヌ、レジェー

前国際公法教授、「ポルトーブラレス」組合弁護士ピエール、ユヂクール

伊太利国皇帝陛下

上院議員、佛国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官、伊国委員長、伯爵ジョセフ、トルニエリ、ブルサチ、ヂ、ヴェルガノ

下院議員、外務次官、「コンマンドール」ギド、ボンビリ

参事院議官、下院議員、前文部大臣、「コンマンドール・ギド、フジナト

日本国皇帝陛下

特命全権大使都筑馨六ツヅキケイロク

和蘭国駐箚特命全権公使佐藤愛麿ヨシマロ

盧森堡国大公「ナッソー」公殿下

国務大臣、内閣議長アイシェン

独逸国駐箚代理公使、伯爵ド、ウィレー

墨西哥メキシコ合衆国大統領

伊国駐箚特命全権公使ゴンザロ、ア、エステヴァ

佛国駐箚特命全権公使セバスチアン、ベー、ド、ミュー

白耳義国駐箚兼和蘭国駐箚特命全権公使フランシスコ、エル、デ、ラ、バラ

「モンテネグロ」国公殿下

「コンセイエー、プリヴェ、アンぺリアル、アクチェル」、佛国駐箚露国特命全権公使ネリドフ「コンセイエー、プリヴェ、アンぺリアル」、露国外務省常任顧問官ド、マルテレス

「コンセイエー、デタ、アンぺリアル、アクチェエル」、和蘭国駐箚露国特命全権公使チャリコフ

諾威国皇帝陛下

前内閣議長、前法学教授、和蘭国駐箚兼丁抹国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官フランシス、ハーゲルブ

巴奈馬共和国大統領

ベリサリオ、ボラス

「バラクェー」共和国大統領

佛国駐箚特命全権公使エウセビオ、マチャイン

比律悉ブリュッセル駐在領事、伯爵ジェー、ヂュ、モンソー、ド、ベルジャンダル

和蘭国皇帝陛下

前外務大臣、下院議員ドブルヴェ、アッシェ、ド、ボーフォール

国務大臣、参事院議官、常設仲裁裁判所裁判官テー、エム、セー、アッセル

退職陸軍中将、前陸軍大臣、参事院議官、「ヨンクヘール」ジー、セー、セー、デン、ベール、ボールチュゲール

特務侍従武官、退職海軍中将、前海軍大臣、「ヨンクヘール」ジー、アー、ローエル

前司法大臣、下院議員ジー、アー、ロエフ

秘露共和国大統領

佛国駐箚兼英国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官カルロス、ジェー、カンダモ

波斯国皇帝陛下

佛国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官サマド、カン、モムタゾスサルタネー

和蘭国駐箚特命全権公使ミルヅァ、アーメッド、カン、サヂグ、ウル、ムルク

葡萄牙国及「アルガルヴ」皇帝陛下

参事院議官、「ペール、ヂュ、ロワイヨーム」、前外務大臣、英国駐箚特命全権公使、特命全権大使、侯爵デ、ソヴェラル

和蘭国駐箚特命全権公使、伯爵デ、セリール

瑞西スイス国駐箚特命全権公使アルベルト、ドリヴェイラ

羅馬尼亜国皇帝陛下

独逸国駐箚特命全権公使アリキサンドル、ベルヂマン

和蘭国駐箚特命全権公使エドガール、マヴロコルダト

全露西亜国皇帝陛下

「コンセイエー、ブリヴュ、アクチュエル」佛国駐箚特命全権大使ネリドフ

「コンセイエー、プリヴュ」、外務省常任顧問官、常設仲裁裁判所裁判官ド、マルテンス

「コンセイエー、、デタ、アクチュエル」、侍従、和蘭国駐箚特命全権公使チャリコフ

「サルヴァドル」共和国大統領

佛国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官ペドロ、ジー、マテウ

英国駐箚代理公使サンチアゴ、ペレス、トリアナ

塞爾比亞国皇帝陛下

陸軍将官、参事院議長サヴァ、グルーイッチ

伊国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官ミロヴァン、ミロヴァノヴィッチ

英国駐箚特県和蘭国駐箚特命全権公使ミシェル、ミリチェヴィッチ

暹羅国皇帝陛下

陸軍少将モム、チャナデー、ウドム

公使館参事官セー、コラヂオニ、ドレリ

陸軍大尉ルアング、ビュヴァルナント、ナリューバル

瑞典国「ゴッツ」及び「ヴァンド」皇帝陛下

前司法大臣、丁抹国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官クヌート、ヒャルマル、レオナルド、ハムマルスキュルド

前○(註:不明な文字※無or典?)省大臣、前高等法院評定官、常設仲裁裁判所裁判官ヨハンネス、ヘルネル

瑞西連邦政府

英国駐箚兼和蘭国駐箚特命全権公使ガストン、カルラン

陸軍参謀大佐、「ジュネヴァ」大学教授ユージェーン、ボレル

「チューリヒ」大学法学教授マックス、フーベル

土耳其国皇帝陛下

特命大使「ミニストル、ド、レヴカフ」チェルカン、バシャ

伊国駐箚特命全権大使レミット、ベー

海軍中将メヘメッド、バシャ

東「ウルグェー」共和国大統領

前大統領、常設仲裁裁判所裁判官ホセ、バトレ、イ、オルドニェス

前上院議長、佛国駐箚特命全権公使、常設仲裁裁判所裁判官ツアン、ベーカストロ

「ヴェネズエラ」合衆国大統領

独逸国駐箚代理公使ホセ、ヒル、フォルトウル


因って各全権委員はその良好妥当な理と認められたる委任状を寄託したる後、左の条項を協定せり。

第一条

締約国は其の陸軍軍隊に対し本条約に付属する陸戦の法規慣例に関する規則に適合する訓令を発すべし。

第二条

第一条に掲げたる規則及び本条約の規定は交戦国がコトゴトく本条約の当事者なるときに限り締約国間にのみ之を適用す。

第三条

前期規則の条項に違反したる交戦当事者は損害あるときは之が賠償の責を負ふべきものとす。交戦当事者はその軍隊を組成する人員の一切の行為に付き責任を負ふ。

第四条

本条約は正式に批准せられたる上締約国間の関係に於ては陸戦の法規慣例に関する千八百九十九年七月二十九日の条約に代わるべきものとす。

千八百九十九年の条約は該条約に記名したるも本条約を批准せざる諸国間の関係に於ては以前効力を有するものとす。

第五条

本条約は成るべく速やかに批准すべし。

批准書は海牙ハーグに寄託す。

第一回の批准書寄託は之に加わりたる諸国の代表者及び和蘭オランダ国外務大臣の署名したる調書を以て之をショウす。

爾後ジゴの批准書寄託は和蘭国政府に宛て且つ批准書を添付したる通告書を以て之を為す。

第一回の批准書寄託に関する調書、前項に掲げたる通告書及び批准書の認証謄本は和蘭国政府により外交上の手続きを以て直に之を第二回平和会議に招請ショウセイせられたる諸国及び本条約に加盟する他の諸国に交付すべし。前項に掲げたる場合に於ては和蘭国政府は同時に通告書を接受したる日を通知するものとす。

第六条

記名国に非ざる諸国は本条約に加盟することを得。

加盟せむと欲する国は書面を以てその意思をオランダ政府に通告し且つ加盟書を送付し之を和蘭国政府の文庫に寄託すべし。

和蘭国政府は直ちに通告書及び加盟書の認証謄本を爾餘ジヨの諸国に送付し且つ右通告書を接受したる日を通知すべし。

第七条

本条約は第一回の批准書寄託の調書の日付より六十日の後又は其の後に批准し又は加盟する諸国に対しては和蘭国政府が右批准又は加盟の通告を接受したるときより六十日の後に其の効力を生ずるものとす。

第八条

締約国中本条約を廃棄せしむと欲するものあるときは書面を以てその旨和蘭国政府に通告すべし。和蘭国政府は直ちに通告書の認証謄本を爾餘ジヨの諸国に送付し且つ右通告書を接受したる日を通知すべし。

廃棄は其の通告書が和蘭国政府に到達したるときより一年の後右通告を為したる国に対してのみ効力を生ずるものとす。

第九条

和蘭国外務省は帳簿を備え置き第五条第三項及び第四項に依り為したる批准書寄託の日並びに加盟(第六条第二項)又は廃棄(第八条第一項)の通告を接受したる日を記入するものとす。

各締約国は右帳簿を閲覧し且つ其の認証抄本を請求することを得。


右証拠として各全権委員本条約に署名す。

千九百七年十月十八日海牙に於て本書一通を作り之を和蘭国政府の文庫に寄託し其の認証謄本を外交上の手続に依り第二回平和会議に招請ショウセイせられたる諸国に交付すべきものとす。

第一 独逸国 

マルシャル

クリーゲ

付属規則第四十四条を留保す

第二 亜米利加合衆国

ジョセフ、エッチ、チョート

ホレェス、ポーター

ユー、エム、ローズ

デヴィッド、ジェーン、ヒル

シー、エス、スペリー

ウィリアム、アイ、ブカナン

第三 亜爾然丁国

ロケ、サエンツ、ピニヤ

ルイス、エム、ドラゴ

セー、ロドリゲス、ラレタ

第四 奥地利洪牙利国

メレー

男爵マッキオ

千九百七年八月十七日の総会議に於て為したる宣言を留保す。

第五 白耳義国

ア、ベルナール

ジー、ヴァン、デン、ビューベル

ギーヨーム

第六「ボリヴィア」国

クラウヂオ、ビニラ

第七 伯剌西爾国

ルイ、ボルサバ

エー、リスボア

第八 勃爾牙利国

陸軍少将ヴィナロフ

イヴァン、カランジェーロフ

第九 智利国

ドミンゴ、ガナ

アウグスト、マッテ

カルロス、コンチャ

第十 清国

第十一 格倫比亜国

ネルへ、ホルグィン

エス、ペレス、トリアナ

エム、ヴァルガス

第十二 玖馬共和国

アントニオ、エス、デ、ブスタマンテ

ゴンザロ、デ、クェサダ

マヌエル、サングィリー

第十三 丁抹国

セー、ブロン

第十四 「ドミニカ」共和国

ドクトル、ヘンリケス、イ、カルヴァハル

アボリナル、テヘラ

第十五 「エクァドル」国

ヴィクトル、エム、レンドン

エ、ドルン、イ、デ、アルスア

第十六 西班牙国

第十七 佛蘭西国

レオン、ブールジョア

デスツールネルド、コンスタン

エル、ルノー

マルスラン、ペレ

第十八 大不列顛国

エドワード、フライ

アーネスト、サトウ

レー

ヘンリー、ハワード

第十九 希臘国

クレオン、リツォ、ランガベ

ジョールジュ、ストレイト

第二十「グァテマラ」国

ホセ、チブレ、マチャド

第二十二「ハイチ」国

ダルベマル、ジャン、ジョセフ

ジー、エヌ、レジェー

ピエール、エヂクール

第二十二 伊太利国

ボンピリ

ジェー、フジナト

第二十三 日本国

佐藤愛麿

第四十四条を留保す

第二十四 盧森堡国

アイシェン

伯爵ド、ヴィレー

第二十五 墨西哥国

ジェー、ア、エステヴァ

エス、ベー、ド、ミエー

エフ、エル、デ、ラ、バラ

第二十六「モンテネグロ」国

ネルドフ

マルテンス

エヌ、チャリコフ

本条約付属規則第四十四条に関して表明し且つ千九百七年八月十七日の第四回総合会議議事録に記入せられたる留保をなす。

第二十七 「ニカラグワ」国

第二十八 諾威国

エフ、ハーゲルブ

第二十九 巴奈馬国

ベー、ボラス

第三十 「パラグェー」国

ジェー、ヂュ、モンソー

第三十一 和蘭国

ドブルヴェ、アッシュ、ド、ボーフォール

ラー、エム、セー、アッセル

デン、ベール、ポールチュゲール

ジー、アー、ローエル

ジー、アー、ロエフ

第三十二 秘露国

セー、ジェー、カンダモ

第三十三 波斯国

モムタゾスサルタネー、エムサマド、カン

サヂグ、ウル、ムルク、エム、アーメッド、カン

第三十四 葡萄牙国 

侯爵デ、ソヴェラル

伯爵デ、セリール

アルベルト、ドリヴェイラ

第三十五 羅馬尼亜国

エドガール、マヴロコルダト

第三十六 露西亜国

ネリドフ

マルテンス

エヌ、チャリコフ

本条約付属規則第四十四条に関して表明し且つ千九百七年八月十七日の第四回総合会議議事録に記入せられたる留保をなす。

第三十七 「サルヴァドル」国

ベー、ジー、マテウ

エス、ペレス、トリアナ

第三十八 塞爾比亞国

エス、グルーイッヂ

エム、ジェー、ミロヴァノヴィッチ

エム、ジェー、ミリチェヴィッチ

第三十九 暹羅国

モム、チャナデー、ウドム

セー、コラヂオニ、ドレリ

ルアング、ビュヴァナルト、ナリューバル

第四十 瑞典国

カー、アッシェ、エル、ハムマルスキュルド

ヨハンネス、ヘルネル

第四十一 瑞西国

チェルカン

第三条を留保す。

第四十三 「ウルグェー」国

ホセバトレ、イ、オルドニェス

第四十四 「ヴェネズエラ」国

ジー、ヒル、フォルトウル


条約付属書

陸戦の法規慣例に関する規則

第一款 交戦者

第一章 交戦者の資格

第1条

戦争の法規及び権利義務は単に之を軍に適用するのみならず左の条件を具備する民兵及び義勇兵団にもまた之を適用す。

一 部下の為に責任を負ふ者其の頭にあること

ニ 遠方より認識得べき固着の特殊徽章キショウを有すること

三 公然兵器を携帯すること

四 其の動作に付き戦争の法規慣例を遵守すること

民兵又は義勇兵団を以て軍の全部又は一部を組織する国に在りては之を軍の名称中に包含す。

第2条

占領せられざる地方の人民にして敵の接近するにあたり第一条に依りて編成を為すのイトマなく侵入軍隊に抗敵する為自ら兵器を操る者が公然兵器を携帯し且つ戦争の法規慣例を遵守するときは之を交戦者と認む。

第3条

交戦当事者の兵力は戦闘員及び非戦闘員を以て之を編成することを得。敵に捕らわれたる場合に於ては二者均しく俘虜の取り扱いを受くるの権利を有す。

第二章 俘虜

第4条

俘虜は敵の政府の権内に属し之を捕らへたる個人又は部隊の権内に属することなし。

俘虜は人道を以て取り扱わるべし。

俘虜の一身に属するものは兵器、馬匹及び軍用書類を除くの外、依然其の所有たるべし。

第5条

俘虜は一定の地域外に出てさる義務を負はしめて之を都市、城塞、陣営其の他の場所に留置することを得。但し止むを得ざる保安手段として且つ手段を必要とする事情の繼續ケイゾク中(註:継続中)に限り之を幽閉することを得。

第6条

国家は将校を除くの外、俘虜を其の階級及び技能に応じ労務者として使役することを得。其の労務は過度なるべからず。又一切作戦動作に関係有すべからず。

俘虜は公務所、私人又は自己の為に労務することを許可せらるることあるべし。

国家の為にする労務に付いては同一労務に使役する内国陸軍軍人に適用する現行定率に依り支払い為すべし。右定率なきときは其の労務に対する割合を以て支払うべし。

公務所又は私人の為にする労務に関しては陸軍官憲と協議の上条件を定むべし。

不慮の労銀は其の境遇の難苦を軽減するの用に供し剰余は解放の時給養の費用を控除して之を俘虜に交付すべし。

第7条

政府は其の権内に在る俘虜を給養すべき義務を有す。

交戦者間に特別の協定なき場合に於ては俘虜は糧食寝具及び被服に関し之を捕らへたる政府の軍隊と対等の取り扱いを受くべし。

第8条

俘虜は之を其の権内に属せしたる国の陸軍現行法律、規則及び命令に服従すべきものとす。総て不従順の行為あるときは俘虜に対し必要ナル厳重手段を施すことを得。

逃走したる俘虜にして其の軍に達する前又は之を捕らへたる軍の占領したる地域を離るるに先んじて再び捕らへられたる者は懲罰に付せられるべし。

俘虜逃走を遂げたる後再び俘虜と為りたる者は前の対しては何等の罰を受くることなし。

第9条

俘虜其の氏名及び階級に付き諮問を受けたるときは實(註:実)をもって答ふべきものとす。若し此の規定に背くときは同種の俘虜に与えらるべき利益を減殺せらるることあるべし。

第10条

俘虜は其の本国の法律が之を許すときは宣誓の後解放せらるることあるべし。此の場合に於ては本国政府及び之を捕らへたる政府に対し一身の名誉を賭して其の制約を厳密に履行するの義務を有す。

前項の場合に於て不慮の本国政府は之に対し其の宣誓に違反する勤務を命じ又は之に服せむとの申し出を受諾すべからざるものとす。

第11条

俘虜は宣誓解放の受諾を強制せらるることなく又敵の政府は宣誓解放を求むる俘虜の請願に応ずるの義務なし。

第12条

宣誓解放を受けたる俘虜にして其の名誉を賭して誓約を為したる政府又は其の政府の同盟国に対して兵器を繰り再び捕らへられたる者は俘虜の取り扱いを受くるの権利を失ふべく且つ裁判に付せらるることあるべし。

第13条

新聞の通信員及び探訪者並びに酒保用達人等の如き直接に軍の一部を為さざる従軍者にして敵の権内に陥り敵に於て之を勾留するを有益なりと認めたる者は其の所属陸軍官憲の証明書を携帯する場合に限り俘虜の取り扱いを受くる権利を有す。

第14条

各交戦国は戦争開始の時より中立国は交戦者を其の領土に収容したる時より俘虜情報局を設置す。情報局は俘虜に関する一切の問い合わせに答ふるの任務を有し俘虜の留置、移動、宣誓解放、交換、逃走、入院、死亡に関する事項の他各俘虜に関し銘銘票を作成補修する為に必要なる通報を各当該官憲より受くるものとす。情報局は該票に番号、氏名、年齢、本籍地、階級、所属部隊、負傷並びに捕獲、留置、負傷及び死亡の日付及び場所其の他一切の備考事項を記載すべし。銘銘票は平和克復コクフクの後之を他方交戦国の政府に交付すべし。

情報局は又宣誓解放せられ交換せられ逃走し又は病院若しくは繃帯所ホウタイジョ(註:前線で負傷者等を収容する施設のこと)に於て死亡したる俘虜の遺留し並びに戦場に於て発見せられたる一切の自用品、有償物、信書等を収集して之を其の関係者に伝送するの任務を有す。

第15条

慈善行為の媒介者たる目的を以て自国の法律に従い正式に組織せられたる俘虜救恤キュウジュツ協会(註:後の赤十字社)は其の人道的事業を有効に遂行する為、軍事上の必要及び行政上の規則に依りて定められたる範囲内に於て交戦者より自己及び其の正当の委任ある代表者の為に一切の便宜を受くべし。右協会の代表者は各自陸軍官憲より免許状の交付を受け且つ該官憲の定めたる秩序及び風紀に関する一切の規律に服従すべき旨書面を以て約したる上、俘虜収容所及び送還俘虜の途中休泊所に於て救恤品を分与すること許さるべし。

第16条

情報局は郵便料金の免除をく俘虜に宛てて又は其の発したる信書、郵便為替、有償物件、及び小包郵便物は差出国、名宛国及び通過国に於て一切の郵便料金を免除せらるべし。

俘虜に宛てたる贈与品及び救恤品は輸入税其の他の諸税及び国有鉄道の運賃を免除せらるべし。

第17条

俘虜将校は其の抑留せらるる国の同一階級の将校が受くると同額の俸給を受くべし。右俸給は其の本国政府より償還せらるべし。

第18条

俘虜は陸軍官憲の定めたる秩序及び風紀に関する規律に服従すべきことを唯一の条件として其の宗教の遂行に付き一切の自由を与えられその宗教上の礼拝式に参列することを得。

第19条

俘虜の遺言はない国陸軍軍人と同一の条件を以て之を領置し又は作成す。

俘虜の死亡昭明に関する書類及び埋葬に関しても亦同一の規則にシタガい其の階級及び身分に相当する取り扱いを為すべし。

第20条

平和克復コクフクの後は成るべく速やかに俘虜を其の本国に帰還せしむべし。

第三章 病者及び傷者

第21条

病者及び傷者の取り扱いに関する交戦者の義務は「ジェネヴァジュネーブ」条約に依る。

第二款 戦闘

第一章 害敵手段、攻圍(注:攻囲)及び砲撃

第22条

交戦者は害敵手段の撰擇センタク(註:選択)に付き無制限の権利を有するものに非ず。

第23条

特別の条約を以て定めたる禁止の外、特に禁止するもの左の如し。

イ 毒又は毒を施したる兵器を使用すること

ロ 敵国又は敵軍に属する者を背信の行為を以て殺傷すること

ハ 兵器を捨て又は自衛の手段盡きて(註:尽きて)降を乞へる敵を殺傷すること

ニ 助命せざることを宣言すること

ホ 不必要の苦痛を与ふべき兵器、投射物其の他の物質を使用すること

ヘ 軍使旗、国旗其の他の軍用の標章、敵の制服又は「ジェネヴァ」条約の特殊徽章をホシイママに使用すること

ト 戦争の必要上萬已むを得ざる場合を除くの外、敵の財産を破壊し又は押収すること

チ 対手当事国国民の権利及び訴権の消滅、停止又は裁判上不受理を宣言すること

交戦者は又対手当事国の国民を強制して其の本国に対する作戦動作に加らしむることを得ず。戦争開始前其の役務に服したる場合とイエドモも又同じ

第24条

竒計並びに政情及び地形探知の為必要なる手段の行使は適法と認む。

第25条

防守せざる都市、村落、住宅又は建物は如何なる手段に依るも之を攻撃又は砲撃することを得ず。

第26条

攻撃軍隊の指揮官は強襲の場合を除くの外、砲撃を始むるに先んじその旨官憲に通告する為施し得べき一切の手段を盡くす(註:尽くす)べきものとす。

第27条

攻囲及び砲撃を為すに当たりては宗教、技藝学術及び慈善の用に供せらるる建物、歴史上の記念建造物、病院並びに病者及び傷者の収容所は同時に軍事上の目的に使用せられざる限り、之をして成るべく損害を免れしむる為必要なる一切の手段を執るべきものとす。

被囲者は看易き特別の徽章を以て右建物又は収容所を表示するの義務を負ふ。右徽章は予め之を攻囲者に通告すべし。

第28条

都市其の他の地域は突撃を以て攻取したる場合と雖も之を略奪に委することを得ず。

第二章 間諜

第29条

交戦者の作戦地帯に於て対手交戦者に通報するの意思を以て隠密に又は虚偽の口實コウジツ(註:口実)の下に行動して情報を蒐集シュウシュウしせむとする者に非ざれば之を間諜と認むることを得ず。

故に變装ヘンソウ(註:変装)せざる軍人にして情報を蒐集せむか為敵軍の作戦地帯内に進入したる者は之を間諜と認めず。又軍人たると否とを問わず自国軍又は敵軍に宛てたる通信を伝達するの任務を公然執行する者も亦之を間諜と認めず。通信を伝達する為及び総て軍又は地方の各部間の連絡を通ずる為軽気球にて派遣せられたるもの亦同じ。

第30条

現行中捕らへられたる間諜は裁判を経るにあらざれば之を罰することを得ず。

第31条

一且イッタン所属軍に復帰したる後に至り敵の為に捕らへられたる間諜は俘虜として取り扱はるべく前の間諜行為に対しては何等責を負ふことなし。

第三章 軍使

第32条

交戦者の一方の命を帯び他の一方と交渉する為白旗を掲げて来る者は之を軍使とす。軍使並びにこれに随従する喇叭手ラッパシュ鼓手コシュ、旗手及び通訳は不可侵権を有す。

第33条

軍使を差し向けられたる部隊長は必ずしも之を受くるの義務なきものとす。

部隊長は軍使が軍情を探知する為其の使命を利用するを防ぐに必要なる一切の手段を執ることを得。

濫用ありたる場合に於ては部隊長は一時軍使を抑留することを得。

第34条

軍使が配信の行為を教唆し又は自ら之を行ふ為其の特権ある地位を利用したるの證迹ショウセキ(註:痕跡のこと)明確なるときはその不可侵権を失ふ。

第四章 降伏規約

第35条

締約当事者間に協定せらるる降伏規約には軍人の名誉に関する例規を参酌すべきものとす。

降伏規約一且確定したる上は当事者双方に於て厳密に之を遵守すべきものとす。

第五章 休戦

第36条

休戦は交戦当事者の合意を以て作戦動作を停止す。若し其の期間の定めなきときは交戦当事者は何時にても再び動作を開始することを得。但し休戦の条件に遵依ジュンイし所定の時期に於て其の旨敵に通告すべきものとす。

第37条

休戦は全般的又は部分的たることを得。全般的休戦はアマネく交戦国の作戦動作を停止し部分的休戦は単に特定の地域に於て交戦軍の或る部分間に之を停止するものとす。

第38条

休戦は正式に且つ適当の時期に於て之を当該官憲及び軍隊に通告すべし。通告の後直に又は所定の時期に至り戦闘を停止す。

第39条

戦地に於ける交戦者と人民との間及び人民相互間の関係を休戦規約の条項中に規定することは当事者に一任するものとす。

第40条

当事者の一方に於て休戦規約重大なる違反ありたるときは他の一方は規約廃棄の権利を有するのみならず緊急の場合に於ては直ちに戦闘を開始することを得。

第41条

個人が自己の発意を以て休戦規約の条項に違反したるときは唯其の違反者の処罰を要求し且つ損害ありたる場合に賠償を要求するの権利を生ずるに止まるべし。

第三款 敵国の領土に於ける軍の権力

第42条

一地方にして事実上敵軍の権力内に帰したるときは占領せられたるものとす。

占領は右権力を樹立したる且つ之を行使し得る地域を以て限とす。

第43条

国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は占領者は絶対的の支障なき限り占領地の現行法律を尊重して成るべく公共の秩序及び生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし。

第44条

交戦者は占領地の人民を強制して他方の交戦者の軍又はその防御手段に付き情報を供与せしむることを得ず。

第45条

占領地の人民は之を強制してその敵国に対し忠誠の誓いを為さしむることを得ず。

第46条

家の名誉及び権利、個人の生命、私有財産並びに宗教の進行及び其の遵行は之を尊重すべし。

私有財産は之を没収することを得ず。

第47条

略奪は之を厳禁す。

第48条

占領者が占領地に於て国の為に定められたる租税賦課金及び通過税を徴収するときは成るべく現行の賦課規則に依り之を徴収すべし。この場合に於ては占領者は国の政府が支弁したる程度に於て占領地の行政費を支弁するの義務あるものとす。

第49条

占領者が占領地に於て前条に掲げたる税金以外の取り立て金を命ずるは軍又は占領地行政上の需要に応ずるためにする場合に限るものとす。

第50条

人民に対しては連隊の責ありと認むべからざる個人の行為の為金銭上その他の連座罰を科することを得ず。

第51条

取り立て金は総て総指揮官の命令書に依り且つその責任を以てするに非ざれば之を徴収することを得ず。取立金は成るべく現行の租税賦課規則に依り之を徴収すべし。

一切の取立金に対得庇手は納税者に領収証を交付すべし。

第52条

現品徴発及び課役は占領軍の需要の為にするに非ざれば市区町村又は住民に対して之を要求することを得ず。徴発及び課役は地方の資力に相応し且つ人民をして其の本国に対する作戦動作に加わるの義務を負はしめざる性質のものたることを要す。

右徴発及び課役は占領地方に於ける指揮官の許可を得るに非ざれば之を要求することを得ず。

現品の供給に対しては成るべく即金にて支払いシカらざれば領収証を以て之を証明すべく且つ成るべく速やかに之に対する金額の支払いを履行すべきものとす。

第53条

一地方を占領したる軍は国の所有に属する現金、基金及び有償証券、貯蔵兵器、輸送材料、在庫品及び糧秣其の他総て作戦動作に供することを得べき国有動産の外之を押収することを得ず。

海上法に依り支配せらるる場合を除くの外陸上、海上及び空中に於て報道の伝送又は人若しくは物の輸送の用に供せらるる一切の機関、貯蔵兵器其の他各種の軍需品は私人に属するものと雖も之を押収することを得。但し平和克復コクフク後に至り之を還付し且つ之が賠償を決定すべきものとす。

第54条

占領地と中立地とを連結する海底電線は絶対的の必要ある場合に非ざれば之を押収し又は破壊することを得ず。右電線は平和克服に至り之を還付し且つ之が賠償を決定すべきものとす。

第55条

占領国は敵国に属し且つ占領地に在る公共建物、不動産、森林及び農場に付いては其の管理者及び用益権者たるに過ぎざるものなりと考慮し右財産の基本を保護し且つ用益権の法則に依りて之を管理すべし。

第56条

市区町村の財産並びに国に属するものと雖も宗教、慈善、教育、技藝及び学術の用に供せらるる建設物は私有財産と同様に之を取り扱ふべし。

右の如き建設物、歴史上の記念建造物、技藝及び学術上の製作品を故意に押収、破壊又は棄損することは総て禁ぜられ且つ訴追せらるべきものとす。


天祐を保有し萬世一計の帝柞をめる日本国皇帝(御名)此の書を見る有衆に宣示す。

朕明治四十年十月十八日和蘭国海牙に於て第二回萬国平和会議に賛同したる帝国及び各国全権委員の間に議定し帝国全権委員が第四十四条を留保して署名したる陸戦の法規慣例に関する条約を閲覧照ケンし其の留保を存して之を嘉納批准す。

神武天皇即位紀元二千五百七十一年明治四十四年十一月六日東京宮城に於てミズカら名を署しを鈐せしむ。

御名国璽

外務大臣子爵内田康哉


※読みやすくするため、原文に一部ルビをふり、常用漢字または現代仮名遣いに変更し、句読点を追加し、また「(註:)」の要領で当サイト筆者たる大浦崑が独自に注釈を挿入した箇所があります。